結論: 「本体10条+別紙3枚」に分けると、3ヶ月ごとの見直しが軽くなる

社内のAI利用ルールは、1枚の規程に全部を詰め込むと更新が止まります。変わりにくい本体(10条)と、変わりやすい別紙(情報の取り扱い区分・承認フロー・使ってよいサービス一覧)を分けるのが、作った後まで生き残る形です。ツールが増えたら別紙3を差し替えるだけで済み、本体の改定手続きを毎回踏まずに運用できます。

社内AIルールを本体10条と別紙3枚に分ける構成の図解

社内AIルールは「本体10条 + 別紙3枚」で作る

変わりやすい部分を別紙へ逃がすと、3ヶ月ごとの見直しが本体を触らずに終わる

配布前チェック(必須10項目・空欄・禁止偏重を機械判定)

別紙3「使ってよいサービス一覧」と別紙4「改定履歴」は、本体を触らずに更新する

禁止だけで終えず、「使ってよい範囲」まで書く

本体(第1条〜第10条) 別紙1 情報の取り扱い区分 別紙2 承認フロー
目的・適用範囲 入れてよい 社内限りの下書き → 不要
入力してはならない情報 加工すれば入れてよい 社外に出す文書 → 上長
出力の確認義務 入れない 公開物・新ツール → 所管
相談窓口・見直し 迷ったら入れない → 相談 記録を残して見直しに使う
変わりにくい 現場が毎日見る核 判断を止めない仕組み
・必須10項目の欠落を検出 ・◯◯のまま残った空欄を検出 ・禁止だけで許可がない状態

この記事では、本体10条と別紙をすべて全文で載せます。加えて、配布する前に「必須項目の欠落」と「◯◯のまま残った空欄」を検出するPythonスクリプトを実際に動かし、その実出力も掲載します。

本記事のレーンは「ルールそのものを作って配るところ」です。隣接するテーマは別記事に分けています。

なお本記事は運用の一般的な整理であり、法的助言ではありません。就業規則・懲戒規定との接続や、個人情報保護法にもとづく個別の判断については、社会保険労務士・弁護士など専門家への確認をおすすめします。

社内AIルールに必要な10項目

ルールに載せる項目は、次の10個で足ります。このうち運用が壊れる原因になりやすいのは、5番(判断基準)・7番(承認フロー)・9番(報告しても責めない旨)の3つです。抜けると、現場が判断できない・承認待ちで止まる・事故を隠すという形で表面化します。

# 項目 決めること 抜けると起きること
1 目的・基本方針 禁止ではなく活用する方針か 「使ってよいのか」が伝わらず利用が止まる
2 適用範囲 誰に適用するか(委託先・派遣を含むか) 対象外の人が対象外だと気づかない
3 使ってよいサービス・アカウント 会社アカウントに集約するか 私物アカウントに業務情報が入る
4 入力してはならない情報 個人情報・NDA情報・認証情報など 何が「機密」かの解釈が人により変わる
5 情報の取り扱い区分 迷った時の判断手順(別紙1) 毎回上長に聞くか、勝手に判断するかの二択になる
6 出力物の確認義務 誰が何を確認してから使うか 誤りを含む文章が社外に出る
7 承認フロー 用途ごとの承認者(別紙2) すべてに承認が必要になり、使われなくなる
8 第三者の権利への配慮 公開物に使う前の確認 権利関係の確認が誰の仕事でもなくなる
9 相談・報告 窓口と、報告者を責めない旨 ヒヤリ事例が上がらず、事故が発覚まで隠れる
10 教育・見直し 見直し周期と改定履歴 半年後に実態と合わない紙になる

順番にも意味があります。1番を「禁止」で始めると、以降の条文が読まれません。方針(使う)→ 線引き(この情報は入れない)→ 手順(迷ったらこう判断する)の順で並べると、現場は自分の担当業務の該当箇所だけ読めば動けます。

そのまま使えるルール雛形(本体・全文)

以下が本体の全文です。◯◯と20XXの部分だけ自社の値に置き換えれば配布できます(置き換え漏れは後述のスクリプトで検出できます)。実測で1,569文字、A4で約2枚です。

生成AI利用ルール(第1版)

制定日: 20XX年X月X日 / 所管: ◯◯部 / 次回見直し: 20XX年X月

第1条(目的・基本方針)
本ルールは、当社の業務における生成AI(文章・画像・音声などを生成するサービス)の
利用について、守るべき事項を定める。当社は生成AIの利用を止めるのではなく、
入れてよい情報の線引きを明確にしたうえで活用する方針とする。
判断に迷う場合は、自己判断で進めず第9条の窓口に相談する。

第2条(適用範囲)
本ルールは、当社の業務に関わるすべての生成AIの利用に適用する。
会社が契約したサービスか個人が契約したサービスかを問わず、対象者は
役員・従業員・契約社員・派遣社員・業務委託先の担当者とする。

第3条(使ってよいサービス・アカウント)
1. 業務で使用してよい生成AIサービスは、別紙3の一覧に掲載したものとする。
2. 業務の情報を入力する場合は、会社が発行したアカウントでのみ行う。
   私物アカウント・無料アカウントに業務の情報を入力しない。
3. 一覧にないサービスを業務で使いたい場合は、第7条の承認を得てから使う。
4. 次の用途は、第4条の情報を含まない限り、承認を得ずに自由に利用してよい。
   社内向け文章の下書き、公開情報の要約、表計算の関数や操作手順の質問、
   自分が書いた文章の校正、アイデア出し。

第4条(入力してはならない情報)
次の情報は生成AIに入力しない。
(1) 顧客・取引先・従業員などの個人情報(氏名・住所・連絡先・顔写真等)
(2) 秘密保持契約(NDA)の対象として受領した情報
(3) 未公開の経営・財務情報(原価、未公表の業績・計画、係争情報など)
(4) ID・パスワード・APIキーなどの認証情報
(5) 社外提供が認められていないソースコード・設計書
(6) 第三者が権利を持つ文章・画像を、許諾なくそのまま入力すること

第5条(情報の取り扱い区分)
入力してよいかどうかは、別紙1「情報の取り扱い区分」に従って判断する。
区分の判断がつかない情報は「入力しない」を選び、第9条の窓口に相談する。

第6条(出力物の取り扱い)
1. 生成AIの出力は下書きとして扱い、担当者が事実・数値・固有名詞を確認し、
   自らの責任で修正したうえで使用する。
2. 社外に提出・公開する文書、契約・見積・法令に関わる文書に、出力をそのまま
   使用しない。
3. 取引先や媒体が生成AIの利用に関する取り決めを定めている場合は、それに従う。

第7条(承認)
別紙2「承認フロー」に定める用途については、実施前に定められた承認者の承認を得る。
承認の記録は◯◯(記録先)に残し、第10条の見直しの材料とする。

第8条(第三者の権利への配慮)
1. 生成物が既存の著作物・商標・意匠に類似していないか、公開前に確認する。
2. 生成物を広告・Webサイト・印刷物などの公開物に使う場合は、第7条の承認を得る。
3. 各サービスの利用規約(商用利用の可否、生成物の権利の扱い)を確認して利用する。

第9条(相談・報告)
1. 判断に迷う場合、および入力してはならない情報を誤って入力した場合は、
   速やかに◯◯(相談窓口の部署・氏名・連絡先)へ連絡する。
2. 誤入力を報告した者を、報告したこと自体を理由に不利益に取り扱わない。

第10条(教育・見直し)
1. 所管部署は本ルールを3ヶ月ごとに見直し、実態に合わない条項を改定する。
2. 改定の内容は別紙4「改定履歴」に記録し、全対象者へ周知する。
3. 新たに着任した者には、着任時に本ルールを説明する。

附則
本ルールは 20XX年X月X日 から実施する。

書き換える時に注意したい箇所を3つだけ挙げます。

  • 第3条4項(承認なしで使ってよい用途)を削らない。ここが本ルールで唯一「使ってよい」を明示している条文です。削ると、実質的に禁止通知になります
  • 第9条2項(報告者を不利益に扱わない)を残す。誤って入力した事実が上がってこなくなると、対応の初動が遅れます
  • 第2条の対象者を実態に合わせる。業務委託先の担当者が自分のアカウントで作業している場合、ここに含めないと第3条が届きません

別紙1: 情報の取り扱い区分

現場が毎日見るのはこの1枚です。「機密情報を入力しないこと」だけでは判断できないため、具体例と扱いをセットで並べます。

区分 具体例 扱い
入れてよい 公開されている情報の要約、一般的な知識の質問、表計算の関数や操作手順の質問、自分が書いた文章の校正(固有名詞を外した状態) 承認不要。自由に利用してよい
加工すれば入れてよい 会議メモ、社内の手順書、問い合わせ対応の文面 氏名・社名・連絡先・金額など特定につながる部分を伏せ字や仮名に置き換えてから
入れない 顧客・取引先・従業員の個人情報、NDA対象情報、未公開の経営・財務情報、認証情報、社外提供が認められていないソースコード 対象外。加工しても入力しない
判断がつかない 上記のどれに当たるか迷うもの 「入れない」を選び、相談窓口へ連絡する(連絡は判断を仰ぐためのものであり、責任を問うものではない)

「加工すれば入れてよい」の行を、人の注意力だけに任せると必ず抜けます。頻度が高い部署では、貼る前に機械的に置換する手順を挟むほうが確実です。標準ライブラリだけで動く伏せ字化スクリプトを別記事で実行検証つきで公開しています(検出できた情報と取りこぼした情報の両方を実出力で載せています)。

別紙2: 承認フロー

承認フローで失敗する典型は、全部に承認を要求して使われなくなる形です。分岐の基準は「社外に出るか」「新しい仕組みが増えるか」の2つに絞ります。

用途 例 承認 確認する内容 記録
社内限りの下書き 議事録の要点整理、社内メールの下書き、アイデア出し 不要 本人が事実・数値を確認 不要
社外に出す文書 提案書、案内メール、見積の説明文 上長 事実・数値・固有名詞、宛先の取り決め 申請フォルダ
公開物への使用 Web記事、広告、SNS投稿、印刷物 上長+所管部署 権利の類似、表示の適法性、サービス利用規約 申請フォルダ
新しいAIサービスの利用 別紙3の一覧にないツールを使いたい 所管部署 入力データの学習利用の設定、契約形態、データの保存先 別紙3へ追記
個人情報を含む処理 顧客データを扱う業務にAIを使う 所管部署+情報管理責任者 委託先の扱い、契約、法令上の整理 申請フォルダ+台帳
業務システムへの組み込み AIを日常フローに常時組み込む 所管部署+情報システム 障害時の代替手段、ログ、権限設計 台帳

運用のコツは、承認の記録を「見直しの材料」として使うことです。3ヶ月後に申請フォルダを見れば、どの用途が多いか、どの申請が形骸化しているかが分かります。承認不要に降ろせる用途が見つかったら、別紙2だけを更新します。

別紙3・別紙4: 使ってよいサービス一覧と改定履歴

この2枚は本体と切り離しておくのが要点です。ツールの追加や設定変更のたびに本体の改定手続きを踏むのは現実的ではありません。

別紙3(使ってよいサービス一覧) は次の列で足ります。

サービス名 用途 アカウント 入力可の区分 承認日
(記入例)文章生成サービス 下書き・要約 会社アカウント 別紙1の「入れてよい」「加工すれば入れてよい」 2026-09-01

「入力可の区分」を列に持たせるのがポイントです。同じ社内でも、契約形態によって入力してよい情報の範囲は変わります。プランごとの学習データの扱いの差はChatGPT法人プラン比較にまとめています。

別紙4(改定履歴) は3列で足ります。

版 日付 変更点
第1版 2026-09-01 制定
第1.1版 2026-12-01 別紙3に2サービス追加、社内下書きの承認を不要へ変更

改定履歴を残す理由は、監査対応というより「見直しが実際に回っているか」を自分たちで確認するためです。半年間1行も増えていないルールは、運用されていない可能性が高いと見たほうが実態に合います。

配布前チェックを機械化する(実行検証済み)

雛形の事故で多いのは、内容そのものではなく「◯◯」のまま配ってしまうことです。相談窓口が◯◯のまま配られたルールは、その時点で第9条が機能しません。

必須項目の欠落・空欄の埋め忘れ・禁止偏重の3点を検出するスクリプトを用意しました。標準ライブラリのみ・88行です。

#!/usr/bin/env python3
"""社内AI利用ルールの配布前チェック。

必須項目の欠落・雛形の空欄(◯◯等)の埋め忘れ・禁止偏重を機械的に検出する。
使い方: python rule_lint.py <ルールのテキストファイル>
標準ライブラリのみで動作する。
"""
import re
import sys
from pathlib import Path

# 必須10項目: (表示名, 本文に含まれているべき表現の正規表現)
REQUIRED = [
    ("1. 目的・基本方針", r"目的|基本方針"),
    ("2. 適用範囲(誰に適用するか)", r"適用範囲|適用対象|対象者"),
    ("3. 使ってよいサービス・アカウント", r"アカウント|指定[しすた]*[るた]?サービス|利用可能なサービス"),
    ("4. 入力してはならない情報", r"入力.{0,12}(してはならない|禁止|しない)"),
    ("5. 情報の取り扱い区分(判断基準)", r"取り扱い区分|区分|判断基準|別紙1"),
    ("6. 出力物の確認義務", r"出力.{0,40}(確認|下書き)|事実確認"),
    ("7. 承認フロー", r"承認"),
    ("8. 第三者の権利への配慮", r"著作|商標|意匠|第三者の権利"),
    ("9. 相談・報告の窓口", r"相談|報告|窓口|問[い]?合[わ]?せ"),
    ("10. 見直し・改定履歴", r"見直し|改定|改訂"),
]

# 雛形を配る前に必ず埋める空欄記号
PLACEHOLDERS = ["◯◯", "〇〇", "○○", "△△", "20XX", "XX年", "TBD", "(部署名)", "(氏名)"]

# 「禁止だけのルール」を検出するための語(許可側 / 禁止側)
ALLOW_WORDS = ["使ってよい", "利用できる", "利用してよい", "認める", "利用可", "使える"]
BAN_WORDS = ["禁止", "してはならない", "入力しない", "使用しない", "認めません", "不可"]


def check_sections(text):
    """必須項目の充足/欠落を判定する。"""
    return [(name, re.search(pat, text) is not None) for name, pat in REQUIRED]


def check_placeholders(lines):
    """未記入の空欄を行番号つきで拾う。"""
    return [(no, ph, line.strip())
            for no, line in enumerate(lines, 1)
            for ph in PLACEHOLDERS if ph in line]


def count_words(text, words):
    """語リストの出現回数を合計する。"""
    return sum(text.count(w) for w in words)


def main():
    if len(sys.argv) != 2:
        print("usage: python rule_lint.py <rule.txt>")
        return 2
    path = Path(sys.argv[1])
    text = path.read_text(encoding="utf-8")
    lines = text.splitlines()

    print(f"== 社内AIルール 配布前チェック: {path.name} ==")
    print(f"本文 {len(text)} 文字 / {len(lines)} 行\n")

    results = check_sections(text)
    ok = sum(1 for _, hit in results if hit)
    print(f"[必須項目] {ok}/{len(results)} 件")
    for name, hit in results:
        print(f"  {'OK  ' if hit else 'MISS'} {name}")

    holes = check_placeholders(lines)
    print(f"\n[空欄の埋め忘れ] {len(holes)} 件")
    for no, ph, line in holes:
        print(f"  L{no}: '{ph}' -> {line[:34]}")

    allow, ban = count_words(text, ALLOW_WORDS), count_words(text, BAN_WORDS)
    print(f"\n[許可と禁止のバランス] 許可表現 {allow} / 禁止表現 {ban}")
    if allow == 0 and ban > 0:
        print("  WARN 禁止だけで、使ってよい範囲が書かれていない")
    elif ban > allow * 3:
        print("  WARN 禁止表現が許可表現の3倍超。使ってよい範囲を具体的に足すことを推奨")
    else:
        print("  OK   許可と禁止の両方が書かれている")

    ng = (len(results) - ok) + len(holes)
    print(f"\n判定: {'配布可' if ng == 0 else f'要修正 {ng} 件'}")
    return 0 if ng == 0 else 1


if __name__ == "__main__":
    raise SystemExit(main())

実行結果1: よくある「禁止だけの通知文」

まず、比較のために「個人情報の入力を禁止します」型の社内通知(248文字)を判定しました。以下は実際の出力です。

== 社内AIルール 配布前チェック: weak_rule.txt ==
本文 248 文字 / 11 行

[必須項目] 2/10 件
  MISS 1. 目的・基本方針
  MISS 2. 適用範囲(誰に適用するか)
  MISS 3. 使ってよいサービス・アカウント
  OK   4. 入力してはならない情報
  MISS 5. 情報の取り扱い区分(判断基準)
  MISS 6. 出力物の確認義務
  MISS 7. 承認フロー
  MISS 8. 第三者の権利への配慮
  OK   9. 相談・報告の窓口
  MISS 10. 見直し・改定履歴

[空欄の埋め忘れ] 0 件

[許可と禁止のバランス] 許可表現 0 / 禁止表現 3
  WARN 禁止だけで、使ってよい範囲が書かれていない

判定: 要修正 8 件

禁止事項は書かれているのに、判断基準・承認・出力の確認・見直しが丸ごと無い状態が数字で出ます。この通知を受け取った側は「では自分の議事録整理はやってよいのか」に答えられません。

実行結果2: 本記事の雛形(空欄あり)

次に、本記事の雛形をそのまま判定した出力です。

== 社内AIルール 配布前チェック: rule_template.txt ==
本文 1569 文字 / 65 行

[必須項目] 10/10 件
  OK   1. 目的・基本方針
  (中略: 2〜9もすべて OK)
  OK   10. 見直し・改定履歴

[空欄の埋め忘れ] 7 件
  L3: '◯◯' -> 制定日: 20XX年X月X日 / 所管: ◯◯部 / 次回見直し:
  L3: '20XX' -> 制定日: 20XX年X月X日 / 所管: ◯◯部 / 次回見直し:
  L3: 'XX年' -> 制定日: 20XX年X月X日 / 所管: ◯◯部 / 次回見直し:
  L47: '◯◯' -> 承認の記録は◯◯(記録先)に残し、第10条の見直しの材料とする。
  L56: '◯◯' -> 速やかに◯◯(相談窓口の部署・氏名・連絡先)へ連絡する。
  L65: '20XX' -> 本ルールは 20XX年X月X日 から実施する。
  L65: 'XX年' -> 本ルールは 20XX年X月X日 から実施する。

[許可と禁止のバランス] 許可表現 2 / 禁止表現 6
  OK   許可と禁止の両方が書かれている

判定: 要修正 7 件

必須10項目は満たしていますが、埋めるべき箇所が4種類・7件残っていることが行番号つきで出ます。埋める必要があるのは、制定日・所管部署・承認の記録先・相談窓口の4箇所です。

なお、この記事を書く過程で最初の雛形を判定したところ、「禁止表現が許可表現の3倍超」の警告が出ました。使ってよい範囲を明示する条文が無かったためです。そこで第3条に4項(承認なしで使ってよい用途)を追加し、警告が消えた状態のものを本記事に掲載しています。

実行結果3: 空欄を埋めた記入例

4箇所を埋めた状態(制定日2026-09-01/所管: 総務部/記録先: 共有フォルダ/窓口: 総務部 情報管理担当)で再実行した出力です。

== 社内AIルール 配布前チェック: rule_filled.txt ==
本文 1599 文字 / 65 行

[必須項目] 10/10 件
  (10項目の内訳はすべて OK。表示は実行結果2と同じため省略)

[空欄の埋め忘れ] 0 件

[許可と禁止のバランス] 許可表現 2 / 禁止表現 6
  OK   許可と禁止の両方が書かれている

判定: 配布可

終了コードは0(配布可)です。改定のたびにこのチェックを通す運用にすると、「窓口が◯◯のまま」「見直し条項を消してしまった」といった事故を配布前に止められます。

このスクリプトはキーワードと正規表現による形式チェックであり、内容の妥当性までは判定しません。項目が揃っていること=法令に適合していること、ではありません。あくまで配布前の抜け漏れ確認の道具として使ってください。

なお、ルールを文書ではなく仕組みで守らせる方向に踏み込む場合は、AIツール側で危険な操作を機械的に止める方法もあります。開発現場向けの例はClaude Codeのhooksでガードレールを作る記事で扱っています。

作る順番と所要目安(4ステップ)

ルールづくりで時間が溶けるのは、たいてい「完璧な第1版」を目指す段階です。第1版は1日で出し、現場の実態に当てて直すほうが早く定着します。

ステップ やること 目安
1. たたき台 本記事の雛形の◯◯を埋め、自社に無い条文を削る 1日
2. 現場に当てる 3〜5名に「これで判断できるか」を聞き、別紙1に実際の業務例を足す 2〜3日
3. 承認・周知 決裁を取り、全社に配布する(下記の周知文) 1日
4. 見直し 承認記録とヒヤリ事例を集め、別紙から改定する 3ヶ月ごと

ステップ2で聞く質問は1つで足ります。「先週あなたがAIに貼った文章は、別紙1のどの区分ですか」。ここで即答できなければ、区分の具体例が現場の業務語になっていないということです。

配布時の周知文も、そのまま使える形で置いておきます。

件名: 生成AI利用ルール(第1版)の運用開始について

各位

本日より、生成AIの利用ルール(第1版)の運用を開始します。
目的は利用を止めることではなく、入れてよい情報の線引きをはっきりさせて
安心して使える状態にすることです。

まず読んでいただきたいのは次の2点です。

1. 別紙1「情報の取り扱い区分」
   入れてよい情報/加工すれば入れてよい情報/入れない情報の3区分です。
   迷った場合は「入れない」を選び、下記の窓口にご連絡ください。

2. 第3条4項「承認を得ずに使ってよい用途」
   社内向け文章の下書き、公開情報の要約、表計算の関数の質問などは
   承認不要です。日常業務ではこの範囲で試してみてください。

誤って情報を入力してしまった場合も、報告したこと自体を理由に
不利益な取り扱いはしません。気づいた時点でご連絡ください。

窓口: ◯◯部 ◯◯(内線XXXX / メール)
本ルールは3ヶ月ごとに見直します。使いにくい点は窓口までお寄せください。

根拠として参照できる公的資料(2026年8月16日確認)

社内で決裁を通す時、「何を根拠にこの内容にしたのか」を聞かれます。2026年8月16日時点で参照できる公的資料は次の3つです。版数まで書いておくと、次回の見直し時に差分を追えます。

資料 発行 版・日付(2026年8月16日確認) ルールのどこに効くか
AI事業者ガイドライン 総務省・経済産業省 第1.2版(令和8年3月31日) 全体の考え方。事業者が自主的に取り組む観点の整理
生成AIの利用ガイドライン 一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA) 第1.1版(2023年10月公開)/画像編 第1版(2024年2月公開) 本体の条文構成。ひな形として公開されている
生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について 個人情報保護委員会 令和5年6月2日 第4条・別紙1(個人情報を含むプロンプト入力の考え方)

個人情報保護委員会の注意喚起は、個人情報取扱事業者に向けて、個人情報を含むプロンプトを入力する場合は特定した利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認すること、および本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力する場合、そのデータが機械学習に利用されないことを十分に確認する必要があることを示しています(要旨。原文は上記出典を参照してください)。この2点は、本記事の第4条(1)と別紙1の「入れない」区分の根拠にあたります。

資料の版数は更新されます。ルールの見直し(3ヶ月ごと)のタイミングで、各資料の最新版を確認する手順を別紙4の運用に含めておくと、根拠が古いまま残る状態を防げます。

よくある失敗3つ

1. 禁止一覧だけを配る 使ってよい範囲が書かれていないルールは、現場を「便利だが許可がない」状態に置きます。結果として会社が把握できない私物アカウントでの利用に流れ、その利用は後から回収できません。前掲の実行結果1が示すとおり、禁止だけの通知は必須10項目のうち2項目しか満たしません。

2. 相談窓口を役職名だけで書く 「上長に相談」と書かれたルールは、上長も判断できない場合に止まります。別紙1の区分判断を引き受ける窓口を、部署名+担当者+連絡手段まで具体化してください。ここが空欄のまま配られる事故は、前掲のスクリプトで検出できます。

3. 見直しの日付を決めずに配る AI関連の仕様・料金・規約は短い周期で変わります。見直し周期(3ヶ月)と次回日付を1行目に書いておくと、改定が「誰かがやるべきこと」から「その日が来たらやること」に変わります。別紙4の改定履歴が半年間1行も増えていない場合は、運用が止まっているサインとして扱ってください。

まとめ

社内AIルールは、本体10条(変わりにくい)+別紙3枚(変わりやすい)に分けると、作った後の更新が本体を触らずに回ります。配布前には必須10項目の欠落と◯◯の残りを機械的に確認し、第3条4項の「使ってよい範囲」を必ず残してください。自社が今どの段階にいるかを整理したい場合は、4タイプ判定のAI導入診断が3分で試せます。

社内ルールの整備から相談したい場合

ルールは配って終わりではなく、承認記録とヒヤリ事例を集めて3ヶ月ごとに直すところまでが運用です。PENGINでは、社内AIルールの整備から業務フローへの組み込み、利用環境の設計までを含めたAI導入・活用支援を行っています。雛形をどこまで自社向けに削るか、といった段階から相談いただけます。


自社サイトがAI検索(ChatGPT・Copilot・Perplexity等)でどう扱われているかは、無料AI検索診断で確認できます。URLのほかに、メールアドレス(会社)・会社名・部署・担当者名の入力が必要です。

VERIFIED
動作確認日: 2026.08.16 / 環境: ルール雛形の配布前チェック(rule_lint.py・標準ライブラリのみ)を Python 3.11.1 / Windows 11 のサンドボックスで実行し、3パターン(禁止だけの通知文・本記事の雛形・空欄を埋めた記入例)の実出力を掲載。参照した公的資料の版数は2026年8月16日に確認(JDLA・個人情報保護委員会は公式ページを取得、AI事業者ガイドラインは総務省・経済産業省ドメインで公開されている文書表題で確認) / ステータス: passed

よくある質問

社内AIルールは、どのくらいの分量で作ればいいですか?
本体はA4で1〜2枚、文字数でいうと1,500字前後が目安です。本記事の雛形は実測1,569文字で、読み上げれば5分程度の分量に収まっています。分厚い規程を先に作ると、読まれない・現場の実態と合わない・改定が追いつかないという形で形骸化しやすくなります。細かさが必要な部分(どのツールを使ってよいか、どの用途に承認が要るか)は本体ではなく別紙に置き、別紙だけを短い手続きで更新できるようにしておくと、分量を増やさずに運用の精度を上げられます。
禁止事項だけを通知するのでは足りませんか?
足りないというより、逆効果になりやすい形です。使ってよい範囲が書かれていないと、現場は「便利だが会社の許可がない」状態に置かれ、会社が把握できない私物アカウントでの利用に流れます。この記事のチェックスクリプトで「禁止だけの通知文」を判定したところ、必須10項目のうち2項目しか満たさず、許可表現0件・禁止表現3件で警告が出ました。禁止と同じ画面に「この用途は承認なしで使ってよい」を並べて書くほうが、結果として会社が状況を把握できます。
ルールを作れば情報漏えいは防げますか?
ルールは「判断の基準」を配るものであり、それ単体で送信を止める仕組みではありません。実務では、ルールに加えて、入力してよい情報を機械的に減らす手順(貼る前に個人情報を伏せ字化するなど)や、会社が用意したアカウントに利用を集める運用を組み合わせます。また、就業規則や懲戒との接続、個人情報保護法にもとづく個別の判断は会社ごとに事情が異なるため、条文化の段階で社会保険労務士・弁護士など専門家への確認をおすすめします。
AI導入・活用支援

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